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紗 たかはしまりこ
1989.05.21
1989年5月のカバーアルバムである。
それは驚きであった。
それまでコンセプトアルバムでコンセプトツアーを行ってきた真梨子さんである。正直なところヒット曲が1-2曲しかない歌手ではない。
オリジナルだけでコンサートホールが満員になる。
そして、当時は、カバーアルバムを出すということ自体が珍しい。近年のように、カバーアルバムブームでもないし、オリジナルが売れなくなって、音楽配信が増えたからという事情でもない。真梨子さんなら、正面から勝負できる。
ではなぜか。
そのリリースした思いは、「紗」というアルバムタイトルに込められている。薄絹の織物。少し荒い生地で上に羽織るものである。
羽織ることで、アクセントを変えて何かを演じていく。オリジナルアルバム「PRETEND」と同じような思いなのか。
そして、このアルバムが、後年登場する企画ものの感じがするベスト盤とは全く異なるものであることはこの詩が物語っている。
それは、「紗BOX」にはない、歌詞カードのブックレットの中にある。大津あきらさんの詩である。著作権の関係で本来は一部だけ掲載するべきだが、あえて全文掲載する。
愛したい、演じたいけれど、実は本当の自分自身の生き方・愛し方がある。
なぜ彼は、憎しみという言葉を使ったのだろう。そんなことまで、考えてしまう。
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収録されたすべての曲が、
2020年の今から見れば30年以上前の名曲であり、その編曲はとても丁寧な奥の深い作り方をしている。原曲の歌手の世界観を壊すことなく、真梨子さんなりに自分の歌のように歌いあげている。
特に、深遠な山奥の滝や白鳥伝説を想起させる「花の首飾り」、真梨子さんのオリジナルといってもおかしくない「涙のバースデー」、お洒落なフランス風の曲調の仕上がりの「色づく街」そして、後年のコンサートでも絶品の歌唱であった「星の流れに」。
その他の名曲たちも、映画のワンシーンを見ているかのように、真梨子さんの感性にピンと来た心象風景を伝えてくる。
今、この大津さんの詩を改めて眺めてみると、それは、「HEART」の世界観である。
憎しみ? いや嫌われても愛し続けたい
そんな思いだ。
しかも、既にこの登場人物は失恋している。
(C)VICTOR ENTERTAINMENT VDR-1611
振り返ると時々この街のすべてが
影絵になっている
影絵の中の舗道、影絵の中の星座
影絵の中の男と女、
影絵の中の途絶えたメモリーズ…
そして風に頬をぶたれ苦笑いして歩き出す
その繰り返しの中果てに生まれる愛が
必ずあるから….
自分以外の誰かになりたい…
誰かのために自分を変えたい…
その青さが悲しく思えて
その勇気が綺麗過ぎるからと
誰にもめぐり逢わなかったら
歌は生まれないでしょう
夢さえ育めないでしょう
ただ微笑みを浮かべ
傷つく事を恐がるよりも
どれだけ憎み、どれだけもがき
そしてその憎しみよりもさらに深く
許し合えたら….
優しさは動いています
優しさは揺れています
優しさは生き物なのです
大津あきら
1.YES MY LOVE
2.愚か者
3.花の首飾り
4.ジェラシー
5.DESIRE-情熱-
6.涙のバースデー
7.さよならは ダンスの後に
8.色づく街
9.星の流れに
10.SWEET MEMORIES
CoverAlbum他...
そして、この詩は、真梨子さんに惚れた作詞家のラブレターなのである。
感性に任せた自然体、「たかはしまりこ」の描いた「切り取られた瞬間愛のシーン」が、名曲のメロディに乗って描かれている。
(2020/09/24掲載)