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​Heart Breaker

2016/06/10 よこすか芸術劇場

 

そのチケットを見たとき、いろいろなことが思い浮かんだ。元気いっぱいの真梨子さん、ほっぺたが魅力的な笑顔の真梨子さん、体調が悪い時の真梨子さん、そして華奢な体なのに、しっかりと握手してくれる真梨子さん。

いままで、何度もいや何十回も1メートルの距離で空間を共有している。そして、昨年の8月には、コンサート直後の真梨子さんにお目にかかれたのも幸運以外何ものでもない。

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果たして、コンサートの席はどこが一番良いのだろうか? 最前列センターなのか、10-12列目なのか、ホールによっては2階席の最前列なのか。ありがたいことに、最前列から最後列までいろいろなところを経験している。東京国際フォーラムの2階の後方というのもあった。

結論を言えば、思い出に残る席が一番良い。

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よこすか芸術劇場 1-BB-25

この席は 、オーケストラピットであり、AA列は24番までしかないので、実質最前列と同じである。そして、真梨子さんまで5メートル。そして、周りはほかのお客様がほとんど目に入らないから、ステージは独り占め。しかも、真梨子さんといえばこのアングルというあの角度である。万照さんやヘンリーさんは目の前で演奏してくれる。そして、グランパは3メートル前で真梨子さんが笑顔で歌ってくれる。

そういう、プレミアムなシートである。

そう、昨年の川口もほぼ同じような席であった。こんなに早く、また幸運に巡り会えたのも、外へといろいろいと発信し続けたことのブーメラン効果なのかもしれない。

​当然ここでしか体感できないいろいろなことがある。

あの幕の結び目。あれは、幕の先を結んだものをイメージしているのではない。蔦状のアイビーのような植物を幾重にも束ねてまとめてリボンのように見せたものである。

ひとつの時間のまとまり、幾重にも溢れ出る感情のようなものをしっかり束ねて縛っているように見える。

前半の真梨子さんのドレスは、白系の生地に、緑黄緑、赤ピンク系、黄色?の小さい花柄である。

そしてふと気づいたのは、「流れる」で出てくる教会のステンドグラスの色合いに似ている。

さらにそのステンドグラスの色は、淡い色に変化し「はがゆい唇」の背景で、アサガオの花のような形を変形させながら、揺れ動く。

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川口リリアの感想で述べたように、今回のコンサートは編曲が素晴らしい。「襟裳岬」の編曲は、春先の眩しい太陽の中を、流氷がゆっくりと流れ始める風景が見えてくる。

その、自然と都会の夜との対比は見事だ。

特に、「Old Time Jazz 」は、よこすかによく似合う。

サックスの音色に、弦楽器の声質の真梨子さんが見事に融合する。そして、実は、この曲の大人感、ゆったりとした夜の調べがあるから、「君と生きたい」が生きている。

「Mr.サマータイム」の訳詞をした竜真知子さんが描いた世界を、編曲の林有三さんが作曲した「君と生きたい」の心象風景。きちんと対になっている。

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象徴的な3曲のポイントは、宮原慶太さんのピアノと真梨子さんの呼吸との「間」である。

川口リリアでは、若干速い感じの歌唱であった。

それは、1秒もない、ほんの気持ちの間なのだ。

そのややスローな入り方が、真梨子さんの弦楽器の声質を、伸びやかに揺らしていく。ほんの少しの声の伸びが、楽曲のディテールを彩っていく。

しかも、「君と生きたい」での宮原さんのピアノは、​jAZZY なテイストを醸し出しているところがある。これを聞いて欲しい。

そして、激しい愛の「Heart Breaker」は、思いっきり情念を解き放つ。結ばれていた叫びが解き放たれる歌唱だ。

「フレンズ」が赤く赤いフレンズなのは、その情念と対比された素朴さを描いているからだ。

それは、ここでも宮原さんのピアノでのイントロの調べと、間奏に工夫がある。

まずは、宮原さんのピアノの入り方が美しい。そして、ここにも真梨子さんとの呼吸の「間」がある。

すごく自然に真梨子さんが歌いながら、語り始める。

そして、間奏。

多くの皆さんが知っている「フレンズ」の間奏は、オーケストラ、ストリングスの音源を使うか、それを模したシンセサイザーで、なぜかドラマチックに、短調のメロディで奏でで、必死に生きた日々を表現してきた。でも、今回の万照さんが奏でる間奏は、暖かい素朴な少し明るめでホッとする間奏なのだ。

これが、初期の「フレンズ」である。ドラマチックというより、もっと素朴な人間を描いて前曲と対比している感じがする。

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ここまでくれば、当然「for you...」の入り方も丁寧である。特に、オープニングから、今日の真梨子さんは体の力が抜けて、声にゆとりがある。

何よりも自然に出てくる笑顔が多い。

音を探ることもなく、ストレートに欲しい音が、声量豊かに出てきて、会場の空気を揺らしてくれる。

本日の「for You...」は絶品であった。 

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そして、もう一つ。

オープニングで、マスターからギターの話が出る。

女性にもてるためという軽い入り方だが、ラストの「海色の風」で、アコスティックギターを弾いているのは、96年秋から体調不良の真梨子さんを支えて励まし続けたヘンリー広瀬さんである。

こういうことに気づいてくると、セットリストの工夫がよく感じ取れるに違いない。

(2016/06/11記)

(c) THE MUSIX
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