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色の STORY
2016/07/09 府中の森芸術劇場
まだ大学生のころであった。あまりにも、育ってきた環境の違う恋人がいた。ただ、彼女もその環境に苦しんでいた。磁石の極が異なるように引き合うものの、その極はいつしか同じ極性となり、反発していった。そんな冬の夕刻、新宿の高層ビルの展望台から、明治神宮の森の方を二人で眺めていた。
高層ビルから見るオフィスビルの明かりは、冷たい青白い光であった。しかし、あるマンションが目に留まった。その一帯だけ暖かいオレンジの光であった。その瞬間「人が生きてる」と思わず呟いた。
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それから7年後、エンパイアステートビルの最上階の展望台から、昼に訪れ額づいた自由の像を右手にポツンとかすかに見ながら、摩天楼のビルを眺めた。
青白い光もあれば、暖かいオレンジの光もある。なんといっても光そのものが、煌めき瞬いていたのだ。これがアメリカだと思った。
あの感動は忘れない。
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今年のSET LISTについては、いろいろと意見があるだろう。真梨子さんが体調が悪いのに、一生懸命歌ってくれているからよいという立場の方もいる。
しかし、物足りないという方もいると思う。
もっと、過去の名曲を聴きたいという方もいる。
私は、嬉しくもあり、また物足りないほうである。
カーネギーがあるからということも言えるが、実は過去4回の海外公演は、すべてコンセプトアルバムをリリースした後のコンセプトツアーであった。つまり、SET LISTのベースはそのアルバムの曲であった。明確であった。
35周年の2008年でも、名アルバムの「Swing Heart」であった。
正直言って、私のストライクゾーンにない桃色吐息がアンコールの1曲目ならば、カーネギーまで出かけなくてもよいと思う。もし、「HEART」や「デイブレイク」や、「想い出のSENZALA」そしてそのほか多数の真梨子さんの名曲がメインにラインアップされていたのならば、渡米を考えたかもしれない。
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だから、今回のコンサートは、編曲の素晴らしさをぜひ聴いてほしい。
そして、シンプルな舞台だけど、そしてシンプルな照明なのだけど、その色の使い方をじっくりと体感してほしいと思っている。
体感してほしいこと。
それは、色のSTORYである。私は、かつてのコンサートツアー「優美彩唱」で、色は音色であるとレポートしてきた。
当然色にはメッセージがある。
心象風景を感じさせるのが、高橋真梨子の世界である。
まるで、香港の九龍側から対岸の高層ビルを見るように、また横浜の海辺でランドマークタワーを見ながら、少し恥じらいながら「もうちょっと見つめて」と話しかけるように、オレンジのライトが恋のシーンを演出する。また、五番街では、マリーの存在を懐かしむ時間を演出していく。
疲れた人が訪れるBARには、大人のJAZZが流れ、天井からつりさげられたライトが揺れている。またダウンライトの明かりの中で、暖かい時間が流れていく。そして、次の瞬間、そのライトは、街灯に代わり、「君と生きたい」という素直な心の叫びを受けとめてくれるのである。
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教会の残像を思い浮かべさせるような、「HEART BREAKER」のあのおどろおどろしい衝撃的な赤の演出はなんなのだろうか。
それは、イエス・キリストの贖罪を表しているかのようである。人々の犯した罪を贖うために聖なる命が永遠の存在になる。愛して愛されてもかなわぬ恋に悶える情念の赤は、神に許しを請う瞬間なのかもしれない。
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そして、場面は、「フレンズ」に代わる。
間奏が始まる瞬間からオレンジの温かい時間が流れ、
2フレーズ目からは天空に煌めく星空を演出する。
でも、自分には、あの新宿のマンションの家庭の温かさのオレンジ、摩天楼の煌めくオレンジに見えてきた。まさに、そこに人が生きていて、励ましてくれる友がいる。恋人がいる。
人が生きているオレンジ色がある。
だから、「for you...」の同じスカーレットの赤が、愛してやまない志向的な想いに昇華されていくのだと思う。
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ラストは、アクアブルーとエメラルドグリーン。
命の誕生の海である。
真梨子さんが励まされた日々である。
そして、オレンジの太陽が光を与える。
夕陽で始まり、また日が昇る。
そして、高橋真梨子の世界は、明日への希望を描き続けていく。
そんなことを感じさせる、大人のコンサートである。
(2016/07/11記)