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Photo Book
たった3キログラムの体重増加がこんなに歌声を変えるものなのだろうか。高音の伸びもクリアーで、しかも倍音の声質の特性である一人ハーモニーの低音部分が同じひとつの音で響いてくる。
真梨子さんは元気だ。
今日のステージは安心して見ることができた。
今だからはっきりと言うが、昨年のコンサートの感想は違和感が有る。それは、編曲の素晴らしさとか間とかという細かいディテールの感想であったからだ。なぜなら、SETLISTとしてはあまり面白くなかったことと、カバー曲のツアーであるために、夏を過ぎたら「襟裳岬」はもういいかなという感じが残ってしまったからである。
その意味で、今年のSETLISTは、よい意味で意外であり、聴かせ方に工夫が見て取れる。
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くしくも、昨年のカーネギーホールのコンサートの感想を監修した際に、こんなことを私は述べている。
人の描く楽しいはずの「夢」なのに、人が近づくとどうして「儚い」夢になるのか。そして、カーネギーのステージに立っていた真梨子さんは、1983年のあの5Th Love Affiarの真梨子さんだと。
1983年、あの初々しい真梨子さんが小さな花束を抱えて、白い衣装で「for you ...」を歌い上げたあの東京厚生年金会館のステージ。あの時の、前に向かって生きていく高橋真梨子が、
今日もステージに立っていた。
VTRテープで見た方が多いと思うが、アルバム「AFTER HOURS」の「涙もろいペギー」を中心に歌い上げている。特に絶品は、「裏窓」であった。
6/4 17:35
黒幕のシックな雰囲気の会場。
宮原さんのピアノのイントロが流れると、螺旋階段のような、ト音記号のようなオブジェが見えてくる。
そして宮原さんのピアノに対峙して横向きで、オープニングの「裏窓」を歌う真梨子さん。
2曲目、3曲目に進むにつれて、あるイメージが浮かんできた。
それは、「Photo Book」である。
「高橋真梨子は、絵空事を事実のように聴かせるSINGER」である。
真梨子さんにとって、絵空事という軽い印象の言葉は、実はとても大切なファクターだ。
例え人から見れば、絵空事のような恋愛も、当事者にとっては、身を焦がす恋愛である。
そして、その中のヒロインは、明日へと救われていく。そんな歌を真梨子さんは歌ってきた。
だから、一曲一曲が 「様々なseen」を写真のように魅せてくれる。
しかも、今年は余計なアレンジなしに、原曲に近いテイストで歌い上げてくれる。
あれぇという位置に、有名曲が奏でられるのも、前半の声の伸びが良い頃合に、しっかりと聞いてもらいたいという配慮とも取れる。真梨子さんらしい。
今年のひとつの聴き方を感じ取れば、それは「愛する人にそばにいて欲しい・・・」という思いである。もともと、ラヴソングだから当たり前だろうが、ポイントとなる部分の曲の並びから感じ取ってほしい。
「裏窓」「そばにきて」
「無伴奏」
「フレンズ」「ありがとう」
「for you...」
そして
「ランナー」。
きちんとひとつのまとまりがある。
見事である。
だから、安心できる。
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私は1ケ月前から、なぜか宇宙に惹かれてきた。
もともと真梨子さんの電飾は天体や宇宙をイメージすることが多い。しかしそれ以上に、何かテレパシーを通じて、演出のキャッチボールをしてしまったかの錯覚を感じている。
それは、今年のメイン曲のひとつ「フレンズ」。
スクリーン全体が星屑の銀河となり、
途中「赤く赤い」銀河として「煌めいていく」。
きちんと歌詞の変遷も見せてくれているのだ。
ブルーとアクアグリーンとスカーレットの照明がシンプルで、しかも曲終わりのシルエットが神々しい「for you...」。この曲終わりのシルエットは大切な時間である。
そして、大人の生き方を感じさせる、暖かい語りかけの「ランナー」。
まるで、一曲一曲のseenで、前に向かって生きていく「 LOVE AFFAIR」を 見せてくれたかのような素晴らしいコンサートであった。
( 2017/06/04 記)