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星の海

2017.07.08 府中の森芸術劇場

オープニングでいきなり「裏窓」が静かに歌われる。

まるで、いきなりブラックコーヒーが出てくるような感じである。「アールグレイの紅茶」とは随分と嗜好、趣味が異なる感じである。

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でも、この曲がなぜ、今年のオープニングであったか、2回目のコンサートでイメージできた。

ある意味、コンサートはひとつの大きな「ドラマ」を見せてくれる。言い換えれば、映画のワンシーンのようにさまざまな情景を描写してくれる。

部屋を出て行く男。

裏窓から見下ろす女。

まるで、フランス映画のワンシーンが、いきなり飛び込んでくる。そう、横向きにピアノを向いて歌う真梨子さんの姿は

まさに、この窓辺の女ではないのか?

いろいろと葛藤するヒロイン。

さよならは 別れの言葉ではなく

再び逢うまでの 遠い約束 

彼の態度の変化に

彼女の思いのアンサーソングが歌われる。

そして、出て行った男にも言い分がある

強さを保てず ドラマが途切れた

あのとき ふたりで星の海を わたることができていたなら

嫌いになって出ていったのではない。

君でなければ 恋はできないのだ

君のために別れる....

そんな、まるでドラマのセリフのような苦しい別れがある。

数年後、ヒロインは

偶然、彼の姿を見る

そのとき 

今自分が ひとり であることを 強く感じてしまう....

あなたが欲しい 愛が全てが欲しい

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別れた話を、友達のように聞いてくれて

いつしか新しい恋人になって、あなたと生きていきたい・・・・

そんな ドラマである。

ただ、なにかおかしい。

そんな、メロドラマのような、ありふれた筋書きなのだろうか?

いいえ、このドラマには、2人しか登場しない。

部屋を出て行く男。

裏窓から見下ろす女。

この二人だけだ。この二人だけでなければ、ヒロインは救われないのである。

​なぜなら・・・・・・・

(c) THE MUSIX

オープニングで、舞台の中央にト音記号にようなものが吊り下げられている。あれが何か、よくわかる座席に今日は座ることができた。左手10列目前後がよく見える位置である。それは、真梨子さんが、ヘンリーさんといろいろと話すシーンで見えてくる。

そう、12センチのヒールを履いて、背筋かピンとしている真梨子さん。髪を少しまとめあげて後ろになびいている。そして、ドレスの背中部分があいていて、綺麗なシルエットが見えてくる。

そう、真梨子さんの背中のしなやかな S字カーブである。背景も、しなやかなカーブを描いて中央にいくほど縦長になっている。

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真梨子さんの舞台照明と言えば、天空の星空だ。

星には、願いが込められる。

しかし、愛が恋しいとブルースを奏でる星屑もある。

本来、演出での星空は、「 for you...」である。

しかし、今年は「フレンズ」である。

そして、その星空は、天空に煌めいているというよりも

星屑のように、そしてまさに星の海になって、さざ波のように押し寄せている。

男と女の恋愛。そして今年歌詞を変えて歌われた背景からすれば、「そばにきて」「フレンズ」で歌われたように、

修羅のような星の海なのだろう。

 

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23才の時に恋をした。一世一代のラブレターを書いた。

3歳年上の人だった。

付き合いもせず、彼女は優しく姿を消してくれた。

出逢う順番、タイミング、その時の状況

「裏窓」のような、ビターな世界ではないにしろ

​人にはいろいろと出逢いと別れがある。

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そんな失恋の話を、部屋を出て行った彼は聞いてくれたのだと思う。新しい恋人ではないと思う。

「ランナー」で酒に溺れたのも彼だ。

しかし、今は彼はいない。

ヒロインはひとりである。

そんな恋愛のドラマチックなシーンを想い出しながら、ヒロインは、自分のことを外から客観的に眺めることができるようになっている。そして、少しだけ強くなっている自分がそこにいる。

そう、その自分こそが、一緒に生きていこうというあなた

である。

ヒロインは救われているのだ。絵空事が現実になる瞬間だ。

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フランス映画なら、部屋を出て行った男の後ろ姿で fin となるかもしれない。

でも、コンサートでは、満面の笑みの真梨子さん。

「明日に生きていく高橋真梨子」が、

そこにいるのである。

(2017/07/08)

 

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