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倍音の響き

2018/06/30 よこすか芸術劇場

私は、このコンサートが好きだ。

そして、今の真梨子さんの歌い方が好きだ。

とても安定感がある。

その理由は、真梨子さんが歌い方、歌唱方法を変えてきたからである。

このことは、昨年から度々書き込んできたことでもあった。しかし、カバー曲の多いコンサートでは、男性曲の低めのキーで歌えるし、また高音部分をなんとか躰をよじって音を出すというシーンも見受けられたのも事実である。

しかし、昨年からの「ジョニイへの伝言」そして「for you...」の ♬きっと のところで明らかな変化があることに私は気づいていた。

変えてきたと書いたが、真梨子さんにしてみれば曲のディテールの表現で、ごく自然になし得たことなのかも知れない。

真梨子さんの声は、弦楽器の音色である。ピンと張った弦よりも、少し余裕のある緩みが奥深い響きを奏でる。

真梨子さんの声は、倍音である。

ひとつの基音に対して、自然に同調するオクターブ分高くてそして低い音が何層にも出ている。

それは、自然界の全ての音と同様に、音に厚みを出す。

今年の真梨子さんは、そのいい緩みがある。

少しだけ体力が回復した分、低音部の響きは前にもまして響いている。

だから、今年の「ジョニイへの伝言」は絶品である。

そして、メロディは高音部に移るのに、低音の声の出し方のまま高く厚く強く持ち上げていく歌い方に変化させているのである。だから、「for you...」も、抜群の安定感がある。それは、あの苦しんだ歌唱ではない。体の動きは、躰の前で指が旋律を奏でながら、実は下からなにかをすくい上げるような感覚に見える。まさに背中で歌っている動きである。

この動きが随所に見られた。

だから、真梨子さんは元気だ。

この歌い方は、真梨子さんにしかできないことだ。

​そして、その歌唱を引き出しているのが、宮原慶太さんのピアノである。真梨子さんの声の弦楽器の響き、そして弦が出す音色のピアノ音が見事に呼応する。

「コバルトの海」「雲母の波」「約束」

​コンサートをまさに、彩る呼応である。

アルバムkatharsisは、まさにカタルシスなアルバムである。さまざまな、愛や思い出のシーンが浮かんでくる。だから、「追憶」をトップに「約束」をラストに持ってきたのだろう。そして、そのkatharsisの描き方を、コンサートKatharsis ツアーでは「海での浄化」で見せてくれる。

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オープニング。幕が開く前の歌いだし。

はい、微妙な工夫をしてくれた。会場内が暗転する。

思わず拍手が出る。そして2秒ほどたって、ひと呼吸分遅く歌が始まる。これなら良い。唐突でもない。

照明の基調の色は、コバルトブルースカーレット、そしてアクアグリーン。そして、この3色のグラデーション。

いつも言うように、真梨子さんのコンサートでは、脚本で言えば、青はト書きの部分である。冷静に自分を見つめる色である。だからkatharsisでは大切な色だ。

スカーレットは、赤い情熱的なそして秘めた想い。

コバルトブルーとアクアグリーンは、命の生成の色である。

「ジョニイへの伝言」の「安定感ある響き」。

そして、情熱的な歌なのに、嘘うその部分で、赤いライトを敢えて使う。まさに「カリソメ」の愛である。

こんなことに気づくと、ははーんと唸ってしまう。

「コバルトの海」は、まるで映画のワンシーンに引き込まれたような感覚。1コーラス目は、コバルトブルーのまま。そして、2コーラス目からは、アクアグリーンがほのかに混じり揺らめく感覚を醸し出す。

海は、その塩の作用で魂まで浄化する。そして、自然界のゆらぎの波長で、心を落ち着かせてくれる。

 

「雲母の波」

微かに波音が聞こえる錯覚にとらわれる。実は、会場の静かな雑音である。ゆらぎの雑音自然音が混じり込む。

そして、なんといっても、上からの1本のメインライトが、真梨子さんを捉えると、真梨子さんの魂が浄化されていくような、微かな水分のスモークが見えてくる素晴らしい演出だ。

そしてコンサートの2部のオープニングで「追憶」背景で流れるイメージ映像は、私には真梨子さんが結婚式をあげたバーミューダ諸島の海に見えた。

 

今日は、前から3列目右45度の席。つまり、真梨子さんを遮るものがなく、マイクもシルエットに入らず、目線が合いやすい6メートルの距離だ。前3列の方が立たないので、当然あの2曲で立てばダイレクトのアイコンタクトである。もちろん思い込みであるが。

その位置で聴く「for you...」

1コーラス目のサビの部分は、コバルトブルー。

2コーラス目はスカーレット。

こんな変化を付けられては、涙が流れないはずがない。

昭和56年、東京音楽祭の国内予選会から聴いている。

初めてこの世に「for you...」が、流れてから何回この曲を聞いたのだろう。1000回以上かな。

そんなうるさい私が、2015年秋の愛知芸術劇場での「for you...」がベストと感じ取っていた。

いや違う。今日の安定感のある、そして少し微笑みのある今日の歌唱がベストの体感である。今がベストである。

そして、「約束」

​ラストの宮原さんのピアノだけになる ♬生命のstarのフレーズのところのライティング。上左右から、交差するスポットライト。そう、あの「stop my love....」である。そんな感覚に囚われる。

赤い情熱的な魂がまさに真梨子さんに戻ってきているシーン。

そして、ラストのピアノ音にあわせて消えていく真梨子さんも、川口の時より少し曲が進んでひと呼吸遅く、消えていく。

そして、「海色の風」

完全に生命が戻った主役は、天からの複数のアクアグリーンのライトで照らされて生きていく。

私はこのコンサートが好きだ。

そして、今日の真梨子さんの歌い方が大好きだ。

「まり子」さんありがとうございます。

 

​( 2018/07/01 MDF音楽館MDF)  

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