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静止画の煌き

2018/7/14 府中の森芸術劇場

それは不思議な感覚である。

まだ、真梨子さんはこのコンサートを4回しか公演していない。しかし、その3回を観た私は、すっかり全てを観た感覚にとらわれている。

2回目の鑑賞となった6/30のよこすか芸術劇場のコンサートレポートで述べたように、新アルバムの「Katharsis」はまさにカタルシスなアルバムで、こんなことがあったねと昔に思いを馳せるアルバムである。その表現のディテールは、真梨子さんの過去の名曲を思い起こすかのようなメロディラインで、海辺で聴いたラジオから、あの懐かしい曲が流れてきたかのような感覚にさせてくれる。

カレン・カーペンターさんのように歌いたいとお話になっていた真梨子さんの「YESTERDAY ONCE MORE」な世界観であるかもしれない。

 

そして、コンサートKatharsisは、その瞬間を切り取ったひとつの静止画として、海を表現のベースに置いている。

しかも、物語のト書きの部分、冷静な語りの部分はコバルトブルー、熱い感情はスカーレット、そして新しい生命はマリンブルーとアクアグリーン。

太陽のオレンジはつかの間の倖せ。

「コバルトの海」の2コーラス目から、ブルーグリーンが波うち始める。「for you...」のあなたが欲しいの部分は、1コーラス目はブルーライト。2コーラス目はスカーレット。歌い手の、そして歌の中の主人公の感情を見事に、そして単純に表現している。

だから、歌い終わりの伴奏の中で、スポットから外れて動かずに立つ真梨子さんの静止画は、煌き続けている。

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もちろん伏線が2つある。

それは、「雲母の波」​。

大きな自然災害を前にして、この曲を聞くと、ヒロインの前から姿を消した彼氏は、別れ話で去ったというよりも、思いもかけない突然の死で旅立ったかのような感覚になってしまった。

残す言葉もなく旅立った彼氏に、切った髪が風に乗って届くように。そんな、波間に去来する魂の歌に聞こえてきた。その世界はモノトーン。その瞬間の静止画は、別次元の世界である。

そして「酒と泪と男と女」

(C)Victor Entertainment

今年のコンサートのメインの曲は、実は「酒と泪と男と女」である。

 

アパートでひとりほつんと酒を飲んでいる。

昔のことを思い起こしている。

何故か、真梨子さんのお母様が亡くなった後、真梨子さんが訪れたあの福岡のアパートの部屋のシーンが浮かんできた。

この曲では、幕の上部が青のライトのみで照らされている。その中で、赤の衣装の真梨子さんが、1本のスポットライトのみで歌う。そして、曲終わりまで、全くこの照明は変化しない。カバーアルバムのリリース当時は、感情を込めずにサラっと歌うと言っていたこの曲を、力強く常に感情を込めて歌っている。いろいろな物語の青の中で、情熱の赤の存在の真梨子さんが感情を込めている。

この2つの伏線があっての「for you...」である。

曲終わりに、スポットからあえて外れてそのまま動かずに立つ真梨子さんの姿は、輪郭が煌めいている。

この青と赤のスポットライトの対比を、感じ取ってほしい。

だからこそ、「約束」のラストで、いままで彷徨ってきた魂、波間で揺れてきた魂が、「生命のStar」として躰に戻ってきたという感覚が体感できるのである。

真梨子さんが力を込めてそのフレーズを歌唱する時、あの「Stop my love...」の照明のように、左右から交互に差してくるスポットライト。その照らし出された瞬間の真梨子さんの姿は、まるでワンシーンごとのコマ送りの静止画のように煌めいて、魂の帰還を表現しているようだった。

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アンコールの「あなたの空を翔びたい」。

冷静な冷たいブルーの照明が、希望のある大空のスカイブルーに変化している。そして生命の源のアクアグリーンが​、エバーグリーンに変化していく「アナタの横顔」

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大団円のフィナーレ。

何度も華やかに流れる「海色の風」のラストの伴奏が、「約束」のサビのメロディと重なって聞こえてくる。

そして、そこには、明日への希望を歌う真梨子さんの世界がある。

( 2018 /07 /15 記 )

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