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ジョニイへの伝言
2022.03.17神奈川県民ホール
もしかしたら阿久悠さんはこれを表現したかったのかもしれない
みなとみらい線の日本大通リ駅に降りると、カモメの鳴き声が迎えてくれる。馬車道のレンガも、元町中華街の近未来なドックも、すべておしゃれな駅である。
真梨子さんは、昔から横浜・横須賀は好きな街、住んでみたいと言ってきた。そもそもこの街に住む皆さんは、街に対しての愛着がありこだわりがある、そういう暖かい街である。
真梨子さんの歌の中にも、いろいろと登場する横浜。一般的に「馬車道」と書かれた詞でもこのみなとみらいかと想像してしまう。
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17列目。最前列のピット席と舞台の距離が近いので、真梨子さんまで20メートルくらいであろうか。床がスロープになっているので、目線は、山下さんのドラムスが乗っている台あたりになる。音質的にも、ステージ全体が見える意味においてもよい席である。
コンサートが始まってすぐ気づいた。それは、ヴォーカルと伴奏の音量の調整である。もしかしたら、それが複線であったのかもしれない。正直なところ、今日の真梨子さんの体調は90点であったろうと思う。声の伸びが足りない。何か風邪気味のような少し詰まった発声である。
だからかもしれない。伴奏の音量がやや抑え気味だったのだ。
それは、少し枯れた歌声でもあり、乾いた感じのする声質であった。いうなれば、艶っぽさと色気が抑えられているかのようだ。
その中で歌われた♪「ジョニイへの伝言」
阿久悠さんが書いたときの時代背景は、ビートルズのブリティッシュサウンド、そしてアメリカへのあこがれの時代を経て若者や女性の社会進出の時代であった。
だから、歌詞に登場するダンサーも、結婚していない20代の女性で、ジョニイは結婚の口約束すらしていない恋人のようにとらえてきた。
しかし、今日の枯れた声の真梨子さんの歌唱
は、そのダンサーの10年後の姿のようであった。スポットライトを浴びるスターを夢見た若かりし頃の情熱を今も秘めてはいても、半ばあきらめながら、でも踊りたいという30代後半のダンサー。そしていい意味で腐れ縁の元恋人のジョニイ。その彼女の姿は、♪Bonita のようであり、少し昔を懐かしむ美女に見えてくる。
天才作詞家が見ていたものは、まさにここにあるのではないか。
秘めた想いを持ち続けること。
日曜朝のオーディション番組「スター誕生」の審査の裏で、エンターテイメントの世界の厳しさを投影していたのかもしれない。
そんな、スタンダード曲のバラードが、今日はブルースのように聞こえてきたのであった。
それは、♪「ごめんね」は少々乱れていたし出だしの音程とグルーヴももう一つであったからだ。もちろん宮原さんは気づいている。
まさに、そのダンサーがスポットを浴びるかのような夜の街に、宮原さんのピアノが引き寄せる。
私は気付いたが、この段階から入りはスローである。そして、♪OLD TIME JAZZで、真梨子さんの呼吸と演奏がびったりとはまってくるのであった。
間奏の万照さんのサックスも、毎回アレンジが異なる。今日の情感と間の持たせ方は、とても素晴らしかった。サックスが泣いていた。
♪Unforgettable の大人のゆとり。
Moonlight Serenade は、月に照らされて明日を生きていく世界。
この曲がセットリストに入っているのは、もともと父と娘の共演というのがモチーフではあるものの、少しほろ苦い思い出を懐かしむ大人の世界観が漂うのである。
このスローなブルースのような情景描写は、
♪EVERYTIME I FEEL YOUR HEART 君と生きたい
で、一つの結晶を見せてくれる。
それは、とてもスローな入り方の調べだからである。今まで少し、リズミカルにピアノが進行することがあったが、今日は一音一音が響いてくるよう進行していた。
それが、真梨子さんの体調との呼応であり、LIVEということなのだろう。
このテンポはいい。
もちろん、♪フレンズ も ♪for you...も
ややスローである。これがいい。
だから、♪for you...のト書きの部分は、自分の過去をナレーションするように語る歌い方に聞こえてくるのである。
そんなライブの余韻に浸りながら、帰路、ふたたびカモメが鳴いてくれた。