Copyright ( C ) MDF 2007-2025 All Rights Reserved
Stage Singer
2022.06.29 ロームシアター京都
(c)ロームシアター京都
(c)まりスタ20220211
ロームシアター京都
2022.06.29 座席番号 1-2-23
この座席は、奇蹟というべきである。
40年以上もコンサートを鑑賞していれば、最前列は何度かある。しかし、このように見通しの良いセンターの2列目は久しぶりだ。
2019年に訪れている。このホールは面白いと思った。ホールは馬蹄型のようでそうではなく、直方体の箱を横においたように短辺の方が客席の作りになっている。つまり、ステージから最後列までの奥行は狭く、ホールは上に伸びている感覚である。このため、各列の段差が明確であり前の観客が邪魔にならない。しかも、前列の間に後列の席が配置されているので見通しが良い。
6月になって、急に時間調整が可能となって行けることになった。当然チケットはないので、チケットぴあを見ていた。複数枚セットはあっても、なかなかない。ようやく見つけたリセールチケット。座席番号はわからない。
行けるだけで幸せだと。
発券可能日前日。その座席番号を見て驚いた。
そして、「あのシーン」が浮かんできた。
*******************
当日周囲の方たちを見渡して、1曲目から立ちあがりますのでと言おうと思っていたところ、隣席の方たちも東京からの方であった。マリーズ会員ではない。つい、お話が耳に入り、立ち上がりましょうねと意気投合。
オープニング、真梨子さんの声が聞こえた瞬間まだ幕があがり始めなのに、私は周囲とまとまって立ち上がった。
そして、真梨子さんが現れたとき、前方ブロックは。ほぼ立ち上がっている。
おそらく、これは、過去のすべてのコンサートで初めてのことである。
実は、私が今年のセットリストを見た瞬間、思い描いたごく自然なシーンなのだ。
♪ありがとう の3フレーズ目。
真梨子さんの目が光っていた。
嬉し涙だと思う。
座席から真梨子さんまで、距離は5メートル。正中線が右ひじ掛けなので、マイクの左5度に真梨子さんが見える。しかも、やや右に体を開いているので、表情が良く見える。
ヘンリーバンドの皆さんもその雰囲気に驚いたようで、一気にステージは盛り上がり、いきなりボルテージが上がった。
♪遥かな人へ は、少し押さえて様子見かな。音質や音量調整も行ったようである。
最初のMCの真梨子さんは、いつもどおりゆっくりと語りはじめ、京都のお客さんはなんでこんなに.....応援してくれてと、ずっと笑顔のままのトークであった。
埼玉から、東京から、仙台から、そして大阪・京都から、全国からたくさん来ていますけれど........と教えてあげたい。
いや、もちろんわかっている真梨子さんの表情であった。
(C)WIX.com
(c)まりスタ2022
our Days2022
今まで、私は真梨子さんと17回握手している。だから、人見知りの真梨子さんが緊張しても、私は普通に話すことができる。華奢な体に比べて、真梨子さんの手は大きく、指もしっかりとしている。
その左手が、♪ジョニイへの伝言 でメロディラインの高揚をかすかに奏で始めた。とても丁寧で、ある意味流れるように歌唱していく。
それは、♪五番街のマリーへ でさらにきめ細かく艶やかな優しい穏やかな波動を発してくれた。
スポットが落ちて、宮原さんを照らし始めたとき、真梨子さんは、ピアノの前のステージドリンクのテーブルにいる。マイクのセットが終わり、
宮原さんのピアノがさらに、夜のとばりを素敵なカクテル光線をイメージさせるとき、真梨子さんは、このメロディを聴きながらセンターに進む。そして、♪OLD TIME JAZZ をサックスが奏で始めたとき、真梨子さんのあのしっかりとした左手の指が、リズムを取りながら3回音を鳴らした。
以前、mysdさんの投稿で、素の広瀬まり子さんから、「アーテイスト高橋真梨子」になる瞬間というお話があった。でも今日の真梨子さんは、苦しそうな表情ではない。フレーズの歌い終わりも、高橋真梨子のままである。ロングトーンも高音の張り上げの後も、アーティストのままだ。こういう時は調子がよいということ。実際、やや右に体を開いて唄っているので、高音部は左手を持ち上げるようにして、右手は右わきを押さえるようにして、体をやや下から上へ持ち上げて発声している。
だから、グルーヴがいい。声質も低音を響かせてとても艶やかである。
しかもこの前半ラストの3曲は、すべて表情が異なる。
♪OLD TIME JAZZ の真梨子さんの艶っぽさは、からだも心も許してくれた恋人が、照れくさそうにややうつむいて微笑んでいる表情なのだ。それは歌詞通りの年上の女性のようでもある。
♪Unforgettable 。間奏のアンサンブルを横向きで聴いている真梨子さんのシルエット、唄っていない瞬間のその横顔の整ったすっーとしたラインと後ろにまとめたヘアースタイルが、誰が見ても高橋真梨子なのだ。
表情はまさに、ジャズシンガーである。
♪君と生きたい のピアノの入りがいい。速くならず、フレーズの間がいい。
真梨子さんの声の張り上げも、ロングトーンもすごい。秘めた想いと愛をぶつけてくる。
そして、体は右によじれない。
まさに、バラードシンガーである。
真梨子さんは、自分の世界観を押し付けない。
しかし、彼女が描く世界は、真梨子さんの表情に表れている。それが体感できる5メートルであった。そして、その歌唱は生の声が聞こえるのである。
マイクを通す前の、ほんのわずかスピーカー音とのずれが生の声だ。アコスティックギターもサックスの音もそうだ。
♪この気分が好きよ で真梨子さんは間奏の間後ろで、膝でリズムを取りながらいわゆるペンギンダンスをしている。とても楽しそうで、笑顔いっぱいである。そして、ちょっとだけ の歌詞の時、左手の親指と人差し指で、ちょっとだけ を振付している。これは前方でないとわからないシーンだ。
*********************************
真梨子さんは前方列とは目線を合わせない。
2018年の東京国際フォーラム2列目中央ブロック右の時も、目線は合わせてもらえていない。
2015年の川口リリアの最前列の時に、聴きたい曲がありますかの問いかけでの目線。あの時はその年のコンサートに対して膨大なリクエストをまとめて提出していた。香港のランチパーティで、二つ隣のテーブルの真梨子さんにカメラを向けて、ファインダ―を見つめていただき、お礼の会釈とアイコンタクトをしたのは極めて特別なことである。
2015年ビクターの企画に当選した知人に同行した相模大野のバックステージ訪問の時間も、真梨子さんの目線も極めて特別なものであった。
だから、とても期待していた。
その瞬間が来ることを。
♪ The Road の歌い終わり。左右の客席にラストの挨拶で動き、元の中央で少し後ろに下がる。そして、ヘンリーバンドの皆さんと歩調を合わせるように前にでてくるシーンだ。
誰よりも、早く立ち上がった私もスポットの光の渦にいる。
そして、目線が合う。
どうでした? の笑顔に、私はもちろん少し頷いて、最高のコンサートでしたの返事を送った。
わずか 1.5秒のアイコンタクト。
それが、夢の瞬間でも思い込みでもよい。
何よりも、真梨子さんとメンバーがわずか3メートル前で、手を振ってくれている。
宮原さんの、充実した満面の笑顔も印象的だ。
************************
そして、真梨子さんのこのコンサートの様子を思い浮かべたとき、すべての所作が高橋真梨子であったことを思い出す。
それを私は、本物の Stage Singer というのだろうと強く体感している。
(2022.07.01 記載)