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Concert MASTER の3音
2022.07.18 フェスティバルホール
(C)フェスティバルホール
19:32 新幹線のコンコースはカオスであった。
三連休の帰り客があふれる新大阪駅。
ジャケット姿でスーツケースを引っ張り颯爽と歩く紳士がいた。宮原慶太さんだった。
つい50分前に、3メートルの距離で、私は喝采の拍手をコンサートマスターに送っていた。
仕事の都合が急遽ついて、しかも入手したチケットはリセール。しかし、座席は京都の幸運に続いて、なんと、1-2-20であった。センターブロックの2列目左から4つ目の席である。
最前列とステージまでの距離は短めである。やや弧を描いていることもあり真梨子さんの位置まで6メートル。ただ、最近やや右に開き気味に立つ真梨子さん。ロングトーンを伸ばすとき、ほぼ真正面から表情が確認出来てマイクが全く邪魔にならない絶好の座席なのである。
どういうわけか、私が前方の時は、1曲目から前方ブロックは、ほぼ総立ちである。ライブ感の高揚は、どうしても客観的に冷めてしまう後方席とは異なるものだ。
ホールの設計は、天井から音が降り注ぐというコンセプト。反響音が小さい。後方席の拍手の音も0.2秒くらいのずれなので気にはならない。もちろん、音像的にはもう少し後ろの方がよいのだろうけれど、当然前からの生の音が響いてくる。
1曲目から盛り上がっているのは、京都で体験済みの真梨子さん。それ以上に何か違う。
そう、2曲目で気づいた。
手の位置だ。
真梨子さんは唄う時に、指をやや内側に向けて右手左手の天地を逆に軽く結ぶ時がある。また、指を重ねて軽く握っているときがある。
それは、SONGSで共演した市村正親さんが真梨子さんを茶化したときのように、ある意味定型のイメージだ。
しかし、今日は違う。
だらっと、両手を下げている。その状態で高音部も楽に発声し、透明感がある。
とてもリラックスして、ブレスも楽なようだ。
もう、頭の中では今日は凄いよという思いは駆け巡る。
♫OLD TIME JAZZ のイントロ。
今日は例によって、左手の指を3回鳴らして、リズムをとった。メインのフレーズで、ファルセットになるとき、左手が旋律に合わせて上に動く。
その指は、中指をやや内側に、人差し指は上、薬指は中指ほどではないけれどやや内側に。そう、それは女神像の指の形であるかのような綺麗な動きだ。
♫ OLD TIME JAZZ
♫ Unforgettable
♫ 君と生きたい
この3曲については、前方ブロックで聞くと、コンサートの中のさらに別のLIVEにいるようである。
万照さんのサックスの間奏のメロディーは、小松崎さんとヘンリーさんがメインの間奏の旋律を吹いているのに対して、毎回異なるアレンジで聴かせてくれる。
(C)航空機と鉄道の風景の部屋
ourDays 2022
そして、この3曲のコーナーに入る演出を、素敵なイントロメロディーで奏でてくれるコンサートマスターは、さらに素敵なシーンを彩ってくれた。
5秒ほどの無音。
そして、♫君と生きたい のピアノの入り。
その3音の世界。
1音目の和音。そして2音目に入るまでのわずかな「間」の空気感。さらに3音目のタイミング。
今日は、真梨子さんのブレスに合わせている。
それは、リラックスしている真梨子さんのテンポを感じとって、しっかりとフレーズごとに唄い終わるその余韻に合わせてキーに触れる。
その瞬間は、譜面上にないアレンジの世界。
会場によっては、3音目がひかれてリズミカルに弾むようなテンポで進行することがある。私が速いと感じるときである。こういう時は、実は真梨子さんがこのテンボに合わせて歌っていることが多い。
しかし、今日の入りは格別で、まさに真梨子さんのヴォーカルと呼応した伴奏なのである。
これが、宮原さんの演奏の聞かせどころであり、その多様な変化がプロの聴かせどころである。
原曲バージョンの♫フレンズ。
当然、オーケストラバージョンとは異なり、綺麗でシンプルな透き通る、まさにキラキラと煌めいているイントロである。
ここも、2音目の入りが素敵だ。
だから、真梨子さんの♪修羅のごとく生きたのフレーズのホールに響く余韻を演出してくれる。
そして、♫ for you...
2音目と3音目のスローな入りも絶妙であった。
1コーラスはさびに入るまでの、ト書きの部分の歌詞のメロディーの掛け合い。それが控えめであり
そして、真梨子さんの心の鼓動と相まっていく、
♪もしも......フレーズからの高揚感。
もう、今シーズン最高の出来であることは間違いない。
各曲の2音目の入り。そして3音目までのテンポ。
そして取り上げたこの3曲の各2音目の色彩。
この「3音」の世界。
いつまでも心に響くライブのメロディである。
リラックスして笑顔でいる真梨子さんの左手が大きく動いたのは、目の前で♫グランパを唄ったときのラストのロングトーンの部分である。
真梨子さんは、目の前の最前列に大分からの遠征女性を見つけ、小さく手を振る。そして、2列目にも、順に視線を送ってくれた。
究極のアイコンタクト 2秒間。
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そして、♫海色の風のライティング。
左から、斜めに照らすスポットが、真梨子さんの背景を遠近法のように奥行を出していく。そのオレンジと、ハーバーライトの緑の世界に包まれる彼女は、わずか6メートル先でも異世界の存在に見えてきた。
このように、ずっと実質的に真梨子さんの右顔というより、綺麗な真梨子さんが、一番綺麗に映るアングルで聴いていたのである。
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ふと、気づいたら新横浜を過ぎていた。
車窓から、品川のビジネスタワー群が見えてきた。
都会で生活していると、気づかない夜景がある。
「仕事帰りにコンサートに来ると、日常とは違う空間に触れることができる、そんな真梨子さんのコンサートが大好きだ」
35年も前にNHKホールのコンサートで書いたアンケートの言葉が浮かんできた。
まるで、その3年後にリリースされた「FANTASIA」収録の ♪君と生きたい そのものの感想だ。
京都のレポートで、来年は14公演と予想した。
しかし、2019高崎がそうであったように、
今日の最高の出来のコンサートで、来年は「やらない」ということを決断したかもしれない。
葛藤はあるだろう。
しかし...........「きっと」やるに違いない。
何よりも、ヘンリーさんと今のバントのメンバーでよいステージを届けたいという想い。
それが高橋真梨子というアーティストだと思う。
そんな少しの不安を感じながら、
東京駅の雑踏の中で、宮原さんのピアノ音が響いていた。
(2022.07.21記載)