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儚い恋
2017/11/26 東京国際フォーラム
私はもとより真梨子さんのプライベートな過去の恋愛について述べるつもりはない。
ただ「裏窓」がそういう背景なためにどうしても「儚い恋」を感じ取ってしまう。
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自分の経験からすれば、「そばに来て」の歌詞が示すような、渡りきれない星の海を何とかして乗り越えて近づこうとするのが、熱い恋ではなかったか。
若かった。そのまま結ばれることを信じていた恋でもあった。しかし、夏の恋も翌年の春には違う展開が待っていた。
引き合うはずの磁石が、余りにも似ていて反発し合うようになっていた。しかし、数年後、偶然出会った彼女との最初の一言だけで何故か打ち解けてしまう。
恋とはそんな不安定な夢なのだ。
もとより、夢の語源は曖昧でふわっとしているもので、明るく未来を見つめるロマンではなかった。だから人がつくと「ふわっとした人」という意味が、儚いにはある。
しかし、語源なんてどうでも良い。
結ばれると信じて恋したのに、近づき過ぎると儚く破れていくのが、「儚い恋」である。
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自分の信じる道を進むことと、やはり住んでいる世界そして将来の世界が違うと見えたとき、「裏窓」の歌詞の世界が訪れる。
それは、「まり子さん」の失恋の原体験でもある。
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秋以降のセットリストの前半は、実は真梨子さんの歌いやすい音域でしかもメゾソプラノの声の厚みの出る音域の曲が並んでいる。「黄昏人」は前回のコンサートレポートでも述べたように、張り上げるべき音域の音を、倍音の低い方を響かせて発声している。ある意味、ドスの効いた声である。
大変僭越だが、この曲の並びで「ジョニイへの伝言」がすごく余裕のある奥の深い歌唱になっている。簡単に言えばあの真梨子さんがさらに進化して上手くなっているということだ。
そして、「夢の途中」が、すごい大人のバラードになっている。あっさりと歌いながら、「裏窓」と対比されている。
背景に人影が行き交い、すれ違う。
でも、大きな時間の流れからすれば一瞬の人生の中で、すれ違う瞬間が「星の海」なのだろう。
♫ 君だから恋をしたのに
こんな一行で、出会った幸せと夢の儚さを描くのが高橋真梨子の世界である。
(C)THE MUSIX
今年のコンサートは、例年よりさらに丁寧であった。前半の終わり方で、急いで幕に消えていくのが残念なだけだ。
間奏部分の演奏が、原曲に近い表現である。
「ジョニイへの伝言」のオルガン音。
かつてはボレロ調であったのを控えめにしている「無伴奏」の間奏。
今日は、真梨子さんがステージ中央に近づいてから「for you...」のイントロを奏で始めた宮原さんのピアノとの呼応。息遣いが伝わる呼応であった。そして間奏は本来はバイオリンとストリングスであるが、それに似せたシンセサイザー音。
そして「ランナー」の出だし2フレーズのパイプオルガンの音色のような呼応。
真梨子さんファンなら納得する作りである。
でも、あえて書こう。
真梨子さんには、もしかしたら"その日"が見えているのではないだろうか。
だから、歌い続けたいのだ。
一時期に比べれば元気なのだが、おそらく、コンサート後の消耗はかなり激しい。
だから、歌い続けたいのだ。
高橋真梨子とは、そういう意地っ張りでまっすぐなステージ・シンガーである。
私は44年間真梨子さんを見てきた。
真梨子さんだから恋をした。
そして、これからも一緒に生きていきたい。
(2017/11/28)