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Carnegie Hall 1993/07/06

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(C)THE MUSIX

グランパ

あなたの空を翔びたい

とまどい小夜曲

五番街のマリーへ

NEW YORK, NEW YORK

水の吐息

Sincerely

Sentimental Journey

夕暮れにルージュ

HENRY BAND PLAY

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STOP MY LOVE

はがゆい唇

桃色吐息

for you...

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ジョニイへの伝言

漂流者へ...

THANKS

そのステージには、緞帳がない。そして背面のスクリーンもない。そこにあるのは、ホール側が譲歩したスピーカー4台と100余りのライト、左右2台前後1台ずつ、そして左後方からの合計7台のカメラである。

カメラの高さは、真梨子さんをほんの少し下から、ほぼ真正面にとらえている。

チャイコフスキーの弦楽SERENADE第1楽章を奏でるメトロポリタン・オペラ・オーケストラのメンバー。

あの曲のエンディングの余韻を感じさせる平田文一さんのピアノ音でコンサートが始まる。

その真梨子さんの最初の表情は、明らかに照れている。

この表情は、オーチャードホールでも見せた真梨子さんの笑顔だ。十分に音響のセッティングをしたのだろうが、しきりに左の音響担当に合図を送るような目線、スタンドマイクも持ち出した。明らかに、歌いづらそうな2曲が流れた。

背景の緩やかなカーブの壁面には、青空をイメージさせるスカイブルーの照明が照らされている。

3曲目、まさに小夜曲のSERENADE。

​真梨子さんは、思い切ったか声をかなり張り上げる。

あの象徴的なサビのチャイコフスキーの旋律に対して、日本のPOPSを歌いあげる。

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当時は、気付かなかった。

そう、最近の真梨子さんのコンサートでよく登場する色使いだ。冷静さのブルー。情熱のスカーレット。

舞台と照明が、真梨子さんの詩の世界を演出していくその方法に93年当時の私は気付いていなかった。

でも、今はわかる。

しかも、セットリストにあるように、

​見事にブロックが対になっている。

​80年代90年代の高橋真梨子のコンサートの原型通り、その代表的な構成である。

青空に対して、SERENADEの赤。青空に対して、夕暮れ。そして、マリーとジョニィの位置が絶妙だ。

定番曲がコンサート全体を生かす構成である。

第2ブロックは、ニューヨークである。

7/4は独立記念日。ハドソン川の花火をイメージさせる花形の複数色の照明が背景で輝く中、ニューヨーク色のステージを演出する。

そして、ステージは青いディープブルーの海の中になり月の明かりが屈折して海中の泡を反射させて輝かせる。

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(C)WOWOW1993.09
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ON THE STAGE

確かに、「STOP MY LOVE」のムービングライトの回転が合わない。しかし、ブルーとスカーレットの対比、そして、まるで花火の残り火が落ちてくるような赤い炎が上から真梨子さんに振り注ぐ。

さらに、ゴージャスな照明の中に、都会の歌「はがゆい唇」が奏でられ、ニューヨークの夜景を空から鳥瞰しているかのような演出になった。まさに対になっている。

 

弦楽のストリングが入っていることから、間奏部分は必ずバイオリンであると思っていた「for you...」。

しかし、予想に反して、いつものコンサート通りのヘンリーバンドの演奏であった。

この「for you...」は入りが速い。かなり軽やかな入りである。もちろん、このツアーを通じて、平田さんのピアノの呼応は一貫して、余計な装飾音を奏でない。だから、その速さがわかる。しかし、2フレーズ目から、逆にゆとりを感じさせるテンポに戻る。

中高音の真梨子さんの声質が、使われていないバイオリンの音色のようになって大ホールに響く。

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そしてそれは、アンコールで、凄い音の広がりをみせてカーネギーに響き渡るストリングスの「ジョニィへの伝言」の序曲となって繋がっていく。

(C)WOWOW1993.09
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青空に対して、深海の海。

そして、「漂流者へ...」では、満天の星空を緩やかなカーブの背面に映し出していく。こんな、演出を93年当時、しかも限られた空間の中で表現している。そのクオリティの高さも絶賛されるべきである。

冷静な自分と情念の赤い自分。

そして満天の星空の彼方。

「THANKS」の余裕と色気のある歌唱は残されている記録の中のベスト1である。

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帰国後、真梨子さんは「My Heart New York City」の中で、銀河を漂流する荒んだ魂の存在に、自分をなぞらえて、歌うことにによって自分の生き方を貫いてきたことを表現した。

くしくも、ゲートブリッジやハドソン川から見る摩天楼の夜景の空撮が、WOWOW版のエンドロールで流れた。

高橋真梨子 44歳の夏。

カーネギーも、同じいつもの平常心のコンサートであると言っていた。しかし、この世界デビューが、彼女の使命をより強く認識させ、そしてそれによって、真面目に向き合う真摯さをも強く表現させたコンサートになったことは確かである。

3年後の身体の変調など、微塵も感じさせない素晴らしい笑顔のエンディングであった。

​(2020/11/03記載)

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