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Eternally 1988.10.05
(C)VICTOR ENTERTAINMENT
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窓へのアダージョ
ちょうど、TechnicsのCDプレーヤーの調子が悪くなりVICTORに買い替えたころであった。深夜、へッドフォンで聞いていると、突然今まで聞いたことのない旋律が流れ始めた。
窓辺のアダージョ その夜明けや朝もやの中に見えるようで見えない陰が感じられた。
この楽曲は、真梨子さんのお父様への曲であると私は思っている。もう一度聞いてみてほしい。
そして、もう一度リフレインするとそこに現われてくるのは、実は日常のちょっとしたseenなのだと感じている。
さっきまで、キッチンでことことと食事の準備の音が聞こえていた。キッチンに行ってみるとそこにいるはずの奥さんがいない。どこへいったんだろう・・・・・こんな身近な、「ある存在の存在感」がこの歌のseenなのである。なんとなく、ソウルオリンピックの喧騒感の中で、この曲はまったく異質の時間を演出してくれた。
ヴォーカリストの真梨子さんが、一生懸命楽器を練習し、不満足な音を出さないように直前まで楽屋でも練習していると聞く。
♬夜になればスターライトの
光あびてピアニシモ
優しさに満ちあふれた あの背中に会いたい
お父様の幻の姿をみながら、ステージの上に立つ自分の存在と、そしてヘンリーさんの優しさに重ね合わせている安心感が感じられる。
「真梨子さんって、ギター弾くんですね?」
「ええ、カプリシャスのときから弾いていたんですよ・・・・・」
9年後の97年レストラン・ヴェランダの庭園の噴水の前で、妻のこんな初歩的な質問にも真梨子さんは微笑んで答えてくれた。そこには、私の人生を変えた2人の女性の「初めての会話(出会い)」があった。わずか数秒間だが、貴重なとっても大切な嬉しい瞬間であった。
「存在の存在感」、真梨子さんを聴いていると、日常の中のこんなちょっとしたseenに幸せを感じられるようになる。それは、真梨子さんが、自分の心の中で輝き続けているからである。
1.恋する瞳
2.窓辺のアダージョ
3.グランパ
4.SOUVENIR
5.虹の水
6.Ma-Mo-Ru
7.捨てられない
8.愛のプライド
9.悲しまないで
1988年のアルバムの作品が、2010年のコンサートのメインテーマになったように感じた。
それだけ、真梨子さんの世界は普遍的であり、人の根源的な思いを歌う世界なのである。
マザー・テレサの慈愛の輝きに心動かされた真梨子さんの描く「虹の水」。お母様がいわゆるひな壇に座って、ほかの出演歌手と一緒に聞いていたあの「夜のヒットスタジオ」でお披露目となった「恋する瞳」。
おそらく、西海岸を旅行されたときのイメージで作られた「グランパ」。もちろん、スタンディングでの応援を想定するものではない。
失恋した友人の話を聞き役に徹してなぐさめてあげた本人の切ない失恋を、たったラストの2フレーズで表現する「Ma・Mo・Ru」。
そして、当時は非公開であったヘンリー広瀬さんとの純な生活を語りながら、ジャズメンであったお父様をオーバーラップさせながら偲ぶ「窓辺のアダージョ」。すぐそこに、愛する人が普通にいることの幸せ。
そして文字どおり、人がいる「倖せ」。
声を張り上げる真梨子さんの歌い方も懐かしいが、真梨子さんの世界は、いつもヒロインが救われる。
「悲しまないで」を聞いた後になぜか涙が消えていく。
(MDF音楽館2007掲載文の改訂掲載 2020/09/05)