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RIPPLE
1996/05/16 東京新宿厚生年金会館
+1996/06/14 神奈川県民ホール
これが、世界のBESTと言われるシンガーのステージであろう。
そして、高橋真梨子が高橋真梨子らしく歌っているステージである。
前年のインタビューで、若い頃の若さにまかせた歌い方ではなくて、中間音の出し方をいろいろと練習して、のどに負担をかけないような歌い方で表現していると言っていたものの、抜群の声量はもちろん、体力そして気力も充実している。もちろん細部の表現での技巧派でもない。
こういうステージを25年前に見れたことはとても幸せなことだ。
おそらく、90年代の高橋真梨子としての代表作であろう。
蜃気楼
涙の街角
Lonely Subway
はがゆい唇
あなたの空を翔びたい
別れの朝
とまどい小夜曲
五番街のマリーへ
ごめんね
水の吐息
ハッピーエンドは金庫の中
虹の水
Heart Breaker 波紋の渦
遥かな人へ
for you...
フレンズ
グランパ
夜明けの走者
(C)WOWOW 1996/06/14
(C)THE MUSIX
真梨子さんはMCで、いろいろとテーマを決めると歌いやすいので、今回は「水」をテーマに少し幻想的なシーンも表現して歌ってみますと、コンセプトを語っていた。そのステージはシンプルで、背面に大きな円の丸窓のような工夫がある。
真梨子さんは輪郭を少しふっくらとみせ、体調も絶好調である。歌いだしも探るところがない。
心配しているところも感じない。
満足の行く表現だったという笑顔が自然に曲間で溢れる。
そして、途中のMCで、こんなにも地の声で明るく話すのかというくらい、愉しんでいる。
そういえば、リクエストコーナーでいろいろとリクエスト曲が会場から声が出て、ヘンリーさんから、「歌いたい曲は?」と尋ねられ
「私? 特にない」と笑顔で言ってしまう
その笑いのやりとりも、LIVE感覚あふれるものであった。大スター高橋真梨子が、自然にそこで輝いていた。
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いくらMCではじけても、歌の入りと最初のフレーズで高橋真梨子の世界に変化させてしまう。
1曲目から2曲目、声の張り上げもグルーヴもよい。こんなに声を出していいの? 今なら、2曲目から立っちゃうよという感じである。音響面でも、モニター面でも心配ない。声の出もよい。カメラなんて気にしない。そんな真梨子さんである。
画像のように、魚眼レンズのように見えた縁の中で都会を描いたその窓は、あなたの空を青空に変える。
「ごめんね」では、精一杯声を張り上げる。
かすれることもぶれることもない。感情を込めない高橋真梨子の歌唱が、感情を込めているように聞こえる。
その窓は、画像のような秋の空である。
(C)WOWOW 1996/06/14
もちろん、波紋の渦のRIPPLEである。しかし、アルバム解説で述べたように、激しい動揺というより、一粒の涙が水たまりに落ちて、波紋の輪が広がっていくような感覚なのである。
歌は「水」でもむしろ、ステージは、「虹の水」がそうであったように、赤く激しい太陽である。
波紋の輪が、太陽の輝きの輪に変化していく。
あの子どもの歌声のイントロに、ドラムスとパーカッションがかぶさっていく。なんといっても、2年目の万照さんのテナーサックスが目立ち過ぎず逸脱せず、ストレートに感情をぶつけてくる。各パートの聞かせどころもかっこいい。
とにかく、キレイでカッコいい高橋真梨子がそこにいる。
「Heart Breaker」は、「stop my love...」の後継の曲だ。強く赤く情熱的な歌声と聖なるものへの心の裏切り。求めてやまない激しい思いが、背面の丸窓を「赤い太陽」を「真っ赤な薔薇」に変えていく。
そして、「遥かな人へ」の白色のイメージを心象風景で感じさせる。
ただ唯一、WOWOW放送版で1か所懸念されることがあった。それは、「遥かな人へ」で、ラストのフレーズが思うような発声にならなかったことだ。
この瞬間が私の脳裏にも残っている。
ほんの1秒間、自分にいら立つ真梨子さんの表情がある。普通に聞こえても、プロでしかわからない、本人でしかわからない小さな変化だったのだと思う。
「for you...」の入りは、少しスロー。
ゆとりも大人の時間も流れていく。真梨子さんの息遣いそのものが感じられる。
「フレンズ」は原曲の、♪赤く赤く生きた フレンズ。
万照さんとヘンリーさんのアルトサックスの間奏が、
素朴な青い時期を描いていく。
実はその後の「フレンズ」は少し脚色され過ぎていて、ダイナミックになり過ぎだ。このリリース前のバージョンが、素敵だ。
2019年のコンサートはこのバージョンに近い。
そして、「夜明けの走者」。このツアーでしか歌われていない。まっすぐに自分の信じる道を歩いて、自分の描きたいコンサートをずっとずっと続けてきた。
振り返れば、そこに「廣瀬まり子さんが描く高橋真梨子」がいた。
そんなさらに前進していく、意欲と決意のエンディングだ。背景は、「大きな月」になっていた。
そこには、自分にそして自分の仕事に厳しい真梨子さんの自信と笑顔があった。
(2020/12/15記載)