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MUSEの誘い (いざない)
2011/6/12川口リリアメインホール
(C)THE MUSIX
私がMDF音楽館を制作する際に、コレクションのタイトルでMUSEを記したことがある。
英語表記のミューズは、ギリシャ神話の女神ムーサの読み替えで、音楽文芸技芸の神として祭祀されている。当然、MUSICもその語源を同じくするものである。
川口リリアのメインホールに入ると、マリンブルーの幕に9つのムービングライトが輝いていた。そして、4つのSOIREEの文字が、右斜めに向けて書かれていた。場内のざわめきの中で、私は、BGMで、オルゴール音の OVER THE RAINBOWが流れているのを確認している。その後は、マリンバの音で、様々なジャズや楽曲が流れていた。
宮原恵太さんのピアノが「MUSEの誘い」を奏でる。
昼を表す、ブルーの青空が暗転して、幕が開く。そこに見えるのは、大都会の夕暮れを上空から映し、高層ビルの合間にあの特徴的なイントロが流れる「はがゆい唇」であった。
まさに、夕暮れのSOIREEの始まりである。3曲目の「陽かげりの街」も川口といえば工場の従業員が、P&Cのコンサートに東京労音のチケットを手に聴きに行った時代もあろう。真梨子さんが言う刑事モノの主題歌で売れたという2曲である。夕陽を背に歩いていく「陽かげりの街」の作曲は、もちろんヘンリー広瀬さんである。2曲目から登場する、背景のメロンのようなイメージは、地球であり時として、西口の新宿警察前の交差点全体を円形のパイプで囲んだ信号機を想像させた。ちなみにその傍にはLOVEのモニュメントがある。
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今年のアルバムは「感謝」をテーマにしたコンセプトアルバムであると真梨子さんもヘンリーさんもいろいろな機会で公表されている。そして、今回のコンサートは、そのコンセプトに基づいたコンサートであるとMCで語られた。
今回、私が、100点満点で130点の感動を覚えたのは、とかく固まりがちな新アルバム曲の構成を2部構成の例年のスタイルの中にうまくちりばめ、押し付けになっていない自然なコンサートに仕上げているからである。もちろん真梨子さんは、たいへん明るく元気で声の伸びもよい。そして丁寧に歌ってくれている。
しかし、私は、このコンサートのコンセプトに、青い星のMUSEの誘いというもうひとつの視点を感じとりたい。
「Hold me ,Rain ~雨に抱かれて」は、ここで登場してしまうのはもったいない感じがしたが後ですべてが解決する。KEYの幅が狭いが、とても歌いこなれていて、同時に高橋真梨子のあの緊張感と安堵感のある声のバランスが感じとれる。
恩人阿久悠氏を偲ぶ曲も、衛星(ほし)に頼ってどうするのかという、生身の人間の声が伝わってくる。
私が4月に音楽館を再開する際に、何を聞けばよいのか迷っていたときに、ブログでは
「Bridge over Troubled Water
- Simon and Garfunkel」
When you're weary, feeling small,
When tears are in your eyes, I will dry them all
I'm on your side.
When times get rough and friends just can't be found,
Like a bridge over troubled water
I will lay me down
.Like a bridge over troubled water
I will lay me down.
を書き込み、震災をイメージさせるも英語詞であるがゆえに、マイルドにそして神の恩寵を表現している曲であるとして取り上げた。真梨子さんも同じ心境であろう。
次のブロックは、HIT曲を歌うという真梨子さんの宣言どおり、名曲が続く。「桃色吐息」はあの原曲に近い表現で、ギリシャのワインを女神が表現した。「LIFE」へと続き、地球の四季とせつなさを感じさせた。
2部に入る。「FRUSTRATION」は、MARIKO!!!である。
そして、このコンサートのメインの曲が来る。
このコンサートには、いわゆるツボのところに3曲のMainがある。
まず「Painter」
この演出は今まで30年真梨子さんのコンサートを見てきたが、BEST5に入る。そう、パステルカラーの虹色のライトが、様々な角度から、MUSEの女神を照らし、そして、後方からのライトが、その女神の輪郭だけを浮かびあがらせるのである。もちろん美術館のMUSEEは、MUSEからの派生語である。
真梨子さんが包まれる虹色のライト。
まさに.OVER THE RAINBOW。真梨子さんが好きな曲。そしてジュディ・ガーランド主演の映画「オズの魔法使い」を想起させる。小さなアパートで暮らしていた少女時代。虹の向こうに、そして星の流れに、将来の夢を描いていたころのひとりぼっちの時間・・・。
ラテンの真骨頂を聞かせてくれて、ずっと一緒に活動してきた、小松崎純さんが、スペイン語の歌詞を張り上げる。真梨子さんと小松崎さんだからのコラボレーション。
そして「ありがとう」
このコンサートのコンセプト。まるでスクールメイツのような振り付けでかわいらしい。
背景の緑とアクアマリンブルーの幕が、Mのデザインであり、3本の金の輪が、真梨子さんのネックレスを表現している。3曲のMAINを象徴していると受け取った。
そして、もうひとつのMAINは「無伴奏」である。休養からの復活後の、香港ツアーの名曲である。元気な高橋千鶴子さんが偲ばれる。間奏は、ヘンリーさんと万照さんの金管楽器のユニゾンで、せつなさと甘い世界を奏でる。
そして、「無伴奏」は「頬にかかる雨が似合うの」で終わる。見事に「Hold me ,Rain ~雨に抱かれて」と見事に対(つい)になっている。
ともに失恋の歌。しかし、雨に打たれても、その恋人を恨むことなく強く生きていこうとするヒロインは、その瞬間救われていくのである。
真梨子さんにも「無伴奏」な時期はあったが、公私を支える伴侶がいる。
そのことへの感謝。「無伴奏」で感謝を表現できるのが、高橋真梨子の世界である。
コンサートマスター宮原慶太さんの作曲であり、宮原さんへの感謝の選曲でもある。
「THE ROAD」は、満点の星空。真梨子さんが、避けては通れない星空をバックに。
ラストの「for you・・・」は、何で赤いライトを使わなかったんですかとある方からの質問。
「青い星の世界での恋愛」だからと私は答えた。
深い緑色とブルーの色合いは、MDF音楽館の色である。そして、青いライトの中で、赤い激しい愛を歌い続ける真梨子さんの背景には、あのネックレスがいつの間にか、3本の惑星軌道に変化していた。
全員でのスタンディングオベイション。
もちろんバックには、「明日へ」が流れていた。
このように素晴らしい世界を見せてくれた。
MUSEの女神が、高橋真梨子さんを通じて、人の愛の素晴らしさを語りかけてくれた。
ゴールドに輝く輪郭の真梨子さん。その輪郭で真梨子さんと見てわかる瞬間が、その語りかけの瞬間である。
たった一回しか見ていないのに、こんなに書けるコンサート。
また真梨子さんに逢いに行きたい。
2011/6/13記
2020/12/07再編集