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STUDIO LIVE 2020

THE FIRST

with Cover Songs Collection Vol.2

2021/01/02 WOWOW

​セピア色の日記

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(C) WOWOW  撮影 田中聖太郎氏
(C) WOWOW  撮影 田中聖太郎氏
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2020年コロナ禍での、STUDIO LIVEである。ソーシャルディスタンスに配慮し、アクリル板で囲われたメンバーの演奏に合わせるのも当然初めてのことである。11月下旬から12月頭にかけての録画であろう。11月5日のTACHIKAWA Stage Gardenでの企業のインナーコンサートからは、約3週間経っている。

今年はconcertがなかったから、真梨子さんがこんなふうに無事に元気な声を聞かせてくれたことはとても嬉しいという感慨はある。しかし、それはそれとして、果たして真梨子さん自身、このLIVEでの歌唱を自己評価したらどうなのであろうか?

「音楽は人を幸せにできる」ことに気付いたという真梨子さん、そして「笑顔で歌える気がする」、そんな素直な真梨子さんの思いの前には、もちろん評価も評点もいらないだろう。

ただ、今回6月から真梨子さんのすべてのアルバムを聴き、すべてのコンサート映像を再度鑑賞しなおしている私からすれば複雑だ。正直なところ「高音が軽く」「低音の響きが効いていない」「ブレスがきつい」「ロングトーンが伸びない」...などの感想が出てしまう。

「桃色吐息」の高音部が軽い、「はがゆい唇」はお腹から声が出ていない。「ごめんね」は、コンサートならもっと張り上げる。しかし、一方でそんな枯れた感じが、「for you...」のト書きの部分のフレーズにはよく似合う。

そして「フレンズ」は、原曲の「赤く赤く」の元詞のフレンズの編曲のまま、2ndVersionの歌詞「修羅のごとく」であった。

なんといっても、間奏の木管楽器の音色がいい。近頃のオーケーストラバージョンのダイナミックな「フレンズ」ではない。まさにジーパンとぼろいアパートの部屋を想起させる青春物語そのものである。​歌詞の中のそのシーンを、枯れた感じがセピア色に綴っている。(左下へ)

その青春のシーンを心象風景で描く、「フレンズ」の真梨子さんは、同時に70歳代の色・青紫のトーンで包まれる。

さらに、背景からのスポットで、金色に輝いている。

「やさしい夢」で回顧した、青春のシーンである。

恋であり、何かに向かって生きていた、そしてもがいていたあの時代、まさに修羅のごとく生きていた日々、

でもとっても純粋だった日々である。

あの日を思い出そう、そしてたとえ儚くてもそんな優しい夢を見たい。そんなとってもストレートな語りの2曲なのだ。

おそらく2021年ツアーで、「フレンズ」はセットリストのポイントになるところで歌い、歌詞はこの「修羅のごとく」であろう。

そういえば..........................

その2曲前のペドロ時代の名曲のシーン。

20年くらい前に、真梨子さんがステージを降りた後どんな感じになるのだろうと想像したことがある。

そして、そのイメージは、

東京・吉祥寺のJazzのライブハウスであった。

グラスの氷の音が聞こえる。タバコのにおいもする。

隅で話し声も聞こえる。ピアノの音が流れてくる。

そして、無造作に真梨子さんが最初の1フレーズを発した時、

その空間は一瞬にして高橋真梨子の世界になる。

そんなイメージを具現化してくれたかのような演出、

椅子に座っての歌唱だ。

これも珍しい。

2003年の「真昼の別れ」以来のことである。

そのセピア色のフィルターで演出された、「ジョニイへの伝言」と「五番街のマリーへ」は、まるで真梨子さんが古い日記のページをめくっているかのようなシーンでもある。

ON THE STAGE
THE CONCERT

その古い日記は、後番組の Cover Songs Collection Vol.2の冒頭で「追憶」が流れ、年代もののラジオがセピア色のトーンに包まれていく演出に繋がっている。

過去映像でオンエアーされた90年代から、2015年ごろまでの真梨子さんは、発展期・完成期の歌唱であり、ソフィスティケイテッドされた美人すぎる艶っぽい存在である。

また声も張りがありそのウエット感がたまらない。

ふと93年の真梨子さんが、今の真梨子さんの娘のように思えてきた。そんな感じである。

「Night & Day」はもちろんだが、今回初めて映像公開された2016年のCanegie Hall公演のアンコールの1曲目

「New York State of Mind」は、若かりし頃のクラブシンガーの時代をセピア色に包んでしまうかのような印象である。ラストのエンドロールもまた、ニューヨークであった。

2021年 このライブは、まさに、始動のTHE FIRSTである。しかし、高橋真梨子は今の状況やこの歌唱の出来に納得するシンガーではない。

もちろん、全盛期と比較してみれば確かに声は出ない。

でも、「音楽で人を幸せにできる」「笑顔で歌える気がする」という真梨子さんのその言葉に少しの嘘もないだろう。

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いよいよコンサートがスタートしていく始動、

そしてそれは同時に、

新たな高橋真梨子の姿の始動なのである。

そんなことを期待させる素晴らしい音楽番組であった。

​(2021/01/03記載)

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(C) WOWOW  撮影 田中聖太郎氏
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