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ひとりあるき
1979.06.10 よみうりホール他
(C)よみうりホール
(C)Victor Entertainment
2020/08/06 リリース「高橋千秋楽」トレイラー映像.1
1958年、フランク永井さんの名曲「有楽町で逢いましょう」は、当時の東京都庁(現在は東京国際フォーラム)の向かい側にある「そごう」デパートのタイアップソングであった。まさに、デパートの最上階にあるホールである。しかし、500-1000人規模のそのホールは、どちらかといえば、入社式や、企業セミナー、映画試写会に使われることが多い。実は、私も企画側でこのホールを使用したことがある。
ホールに向かうエレベーターも、デパートの売り場である。
降りれば数件のレストラン、その隣だ。小さめな事務室といくつかの小さな楽屋しかない。もちろん79年では、コンピューターもコンピュータ制御のライト操作や、高音質のスピーカーもない。
手元の資料79年3月のFMファンの広告には、こんなフレーズがある。「ペドロ&カブリシャスの元リードボーカル高橋真梨子.......、
今、本格的なボーカリストとして、ポップスの新しい夜明けに大きく翔びたった。ラテン、ジャズをベースにポップスでも演歌でも、フォークでもいい、自分で納得のいく歌を歌ってみたいという彼女。彼女はドラマチックな歌が好きだ。それもわざと涙を流すような造りものの歌ではなく、自分の感性が『これだ』と反応した歌を正直に聞いてほしいと言う。高橋真梨子、純な心を持った大型ボーカリストの登場だ。」
そういえば、「ひとりあるき」のライナーノーツには、日本語の歌詞を大切にして歌いたい、そして絵空事の恋愛をどこまでも真実の愛として描いてみたい、という真梨子さんの気持ちも書かれていた。
2020年8月26日にリリースされる「高橋千秋楽」のトレイラー映像。その中の映像の別目線の画像がこの広告である。
なんとなく都会の女子大生っぽい感じがする。当時のTV界の風潮は、素人女子高生がアイドルであり、少し大人びた感じに仕上げたのも、所属事務所のザ・バードコーポレーションの担当プロデューサーやビクターの意向も大きくかかわっている。
(C)FMファン 1979.3
オープニング)
Keep On Singing
さよならのエチュード
YOU'RE SO FARAWAY
For The Good Times
陽かげりの街
五番街のマリーへ
真梨子のYWCA
ジョニイへの伝言
Surabaya Johnny
あなたの空を翔びたい
おいでサマーホリディ
ハート&ハード
雨降りお月さん
竹田の子守歌
Mamita Linda
Mi Propio Yo
Lonely Hearts Club
MR.CLARINET
アンコール)
ハート&ハード
このコンサートのSETLISTを見て、違和感を感じるのは当然である。
まず、ヘレン・レディの大ヒット曲からだ。そのアップテンポなキャッチーな曲調から、スローバラードに転じる。お洒落な曲、そして、カントリー調の名曲である。ここまでで、ホールが新しい高橋真梨子の世界になる。当然P&Cからのファンのために、そのコーナーがある。しかし、今で言うジョニィ繋がりなのか、オペレッタのSurabaya Johnnyは、少し冒険であった。
「あなたの空を翔びたい」を聴かせ、中南米風なアップテンポな「おいでサマーホリディ」の次に、聴いたことのない曲が来る。
「ハート&ハード」である。当時、尾崎亜美さんと真梨子さんは親交も深く、雑誌対談などしていた。まさに当時のビックネームの尾崎さんが曲を提供していた時代である。その後、いすずジェミニのCM曲として、頻繁に流れたのが懐かしい。シングルは6/11発売、LP収録は翌年である。
この曲が、コンサートのメインの位置にある。
日本の名曲は、P&C時代から歌っていたから違和感はない。まして事務所には、赤い鳥解散後のハイファイセットがいる。
しかし、異質なのは、真梨子さんらしからぬセリフを言ったり、お月さんに感じられる、お父様を連想させるような歌謡曲的「お涙頂戴」の過剰な演出意図を感じてしまう。新人の真梨子さんとしての意図とは、明らかに乖離した演出が存在していたのだ。
「おいでサマーホリデイ」は、実は次のブロックの伏線にもなっている。
ラテンの名曲が続く。わかりやすく言うと長谷川きよしさんの短調の世界、フリオ・イグレシアスの明るい太陽の世界である。
そして、その後も歌い続ける「Lonely Hearts Club」は、当時の真梨子さんの手探りの葛藤と心境をPOPに表している感じだ。ラスト曲は、正直ミスマッチ。P&Cのサウンドといえばそうなのだが。
そして、同じ曲でアンコールというのはよくわかる。
(C) THE MUSIX
印象的なライティングも、音源効果もない。バンドの生演奏で、スピーカーをステージの左右に積上げたら、いわゆるフォークソングのコンサートや、まるで学園祭のステージのようでもある。舞台も狭い。
ある意味、それが、グレープ解散後のさだまさしさんやフォークサウンドのクラフトが所属していた事務所のカラーではあったけれど、そのステージには、真梨子さんの歌の世界しかない。
そんな、外連味のない姿勢が、40年たった今でも真梨子さんの姿勢である。
「ドラマチックな歌が好きだ。それもわざと涙を流すような造りもの歌ではなく、自分の感性がこれだと反応した歌を正直に聞いてほしい。」.......そんな命のシルエットの写真なのだろう。
その姿は、今も何も変わっていない。
「高橋真梨子の世界」は、絵空事で真実の世界を描き続けていくのである。
(2020/08/06記載)