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高橋千秋楽 感想②
「高橋千秋楽」で、真梨子さんは新曲2曲を収録している。そして、プロモーション活動の中で、初めて自分のことを書いたと述懐している。
少し、補足すればそれは主人公として自分のことを書いたということである。ある意味、一人称での語りであるということだ。
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実際に、真梨子さんの全曲を聴いてそして長年コンサートを観ていれば、真梨子さん自身の想いは、実は数多く、歌の中の主人公に投影されている。
今回収録されていない曲もとりあげて簡単に触れてみる。
アルバム1996年「RIPPLE」『家へ帰ろう』の中では、♪流れ星 月を追いかけて ほんのり浮かぶ 金のゴンドラと書いているが、これはまさに映画ペーパームーンのように、銀河の中を彷徨う自分の魂が、音楽を教えてくれたお父様(月)を追いかけてとなぞらえているようだ。
アルバム2000年「musee」『デルタ』では、
♬月と太陽と地球 距離がすごく不思議
と書いている。これは、お父様とお母様、真梨子さんの関係を投影しているし、ヘンリーさんとの生活も投影している。もとより、前作アルバム1999年「two for nine」は、お母様の野辺送りと向き合ったアルバムでもあるし、ヘンリーバンド含めて9人の中のヘンリーさんと真梨子さんであり、赤い愛i なのだ。
そして、『貴方と』が象徴的である。
このころ真梨子さんはインタビューでこんなことを話している。「高橋真梨子はファンを含めてみんなが
作り出した存在。私は、ごく普通の女性で、コンサートを作る一員にすぎない」と。
この『貴方と』の中で、
♪この世に生まれたならば.......そう役割がある
♪貴方のそばに私が 居るのを受けとめていて
♬自分で自分の影は踏めない
真梨子さんは、まさに2人称の高橋真梨子という存在に対して、1人称の廣瀬まり子で語り掛けてきている。
また、他にもたくさんある。
それらが、コンサートの中で、その時のワンシーンを投影してきた。アルバム2006年「fiesta」『時間のそよ風』の中では、
♪そっと 私ををいたわっていた 優しさは此処にある 話聞かない 地図が読めない 男と女でも
と歌い、ヘンリーさんとの生活を垣間見させる。
(C)THE MUSIX
真梨子さんは、若い頃は「少しほっておいて、仕事はちゃんとするから」というタイプであった。
もちろん、真梨子さん自身の若かりし頃の状況を推測することは僭越だが、好きな歌を歌うことが自分自身のための存在価値を確かめる術であった。そして、ソロになってしばらくは、既述の通り、何かの演出のために歌わされてきた。
本当に歌いたい、自分の感性にフィットするアルバムを作り出せたのは、「Dear」である。
真梨子さんが、今回印象的な3曲として挙げた「漂流者へ...」も「for you...」も収録している。
仕事として妥協しない、歌に厳しい姿勢。何かに媚びない。その真梨子さんのこうありたいという姿勢と、「役割」「使命」ということの葛藤が、96年以降の体調不良とメンタル面のアンバランスを引き起こしてきたのも事実だ。
この頃のことを2018年アルバム「Katharsis」収録の『約束』では、
♪アイツは突然 唄うのをやめてしまった
無限の天と地が放つ カオス
と歌えなくなった「高橋真梨子」のことをアイツとまで述懐している。
その間2011年「SOIREE」『THE ROAD』の中で
既に、それまでの自分の歩みを総括は既にしている。
今回、新聞インタビューで、ステージを降りることは、2015年くらいから考え始めていたと述懐されている。その年のコンサートは、確かに会場ごとで、そしてコンサートの前半・後半ですら出来のブレが大きいことがあった。
確かに、10月の愛知芸術劇場のコンサートは極端に素晴らしく、しかしそれ以降の西方向のツアーはかなり体力を消耗していた。
だから、そういう話は出ても、しっかりと最後までやり遂げたい思いで、それ以降自分に鞭打って戦ってきたということだと感じられる。
それらの伏線の究極的なサインが、別稿の通り2019年「Mari Covers」の『BAD BOY』のあの優しい、とても穏やかな歌声であったのだと思う。
♪サヨナラとつぶやいて ただの女が去っていく
と歌いあげてくれたのだ。
これがあるからこそ、今回収録の『やさしい夢』と『愛する人へのメッセージ』で、[初めて自分のことを主人公にした姿]が生きてくる。
そしてその夢は、普通の生活に入るというものである。
高橋千秋楽のラスト3曲がいい。
誰かのために歌う、そして逢いに行く。
このような活動をし続けてくれた真梨子さんが、いよいよ、自分のため、ヘンリーさんのために
普通の生活に入る決断をする。
そして、決して派手でないエンディングに
儚い夢が投影されている。
私は、ファンの中でも、恵まれた形で応援してきたのかもしれない。
ただ、この文で回顧したように、真梨子さんが描く心象風景に、少しでも触れたいと人一倍体感に努めてきた。
だから、今回の真梨子さんの夢のリアルさに、ようやく温かく送り出す感覚になっている。
真梨子さんのリリースとした曲は約500曲。
「高橋真梨子」は、少し振り向きながら、
優しく ありがとう サヨナラ
といってくれた気がするのだ。
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高橋真梨子さん ありがとう。
そして、
廣瀬まり子さん お疲れ様でした。
(2020/09/04記載)