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香港博覧中心

Convention&Exhibition Center. HongKong

1997/10/31

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(C)THE MUSIX

2021年5月。あのコンサートからもう23年7か月が経過しようとしている。もちろん23年後にこのような形で、回顧のレポートを記入しているなんて想像していなかったし、真梨子さんがステージを降りようとしていることも想像はできなかった。

その日そこにあったのは、実は「不安」である。

もちろん、この年のツアーは9/4からスタートしていて、香港公演までは20公演を終了している。

しかし、当時は仕事も忙しく、またこのツアーに行く為に地方公演には出かけていなかったので、tip topツアーの初めての公演である。

このコンサートは、WOWOWで12/16に放送されたオンエア版をぜひ見てほしい。

セットリストも、現在のツアーの原型であるし、96年の最高のコンサートを彷彿させる出来具合である。

特に、6曲目の「五番街のマリーへ」のテンポがほんの僅かスローであるところに、再びコンサート会場で思いっきり歌える喜びを込めて、のびのびと歌っている真梨子さんの想いが凝縮されていると感じとれるのである。

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横約100m、縦約70mの展示会場のホール。

もちろん幕はない。

20時5分。暗転した会場にほんのりスモークが出て青のライトが背景の香港のビル街のセットを照らしていく。

激しいビートに喧騒な街の音、そして聞こえてくるのは真梨子さんの歌声。WOWOW版では、ハードなタイトルバックのロゴが左右から出てきて、白から赤い文字に変わって視線をステージに集中させる。それは、香港の夜景に真梨子さんの歌声が響いていくシーンである。

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ショートな髪の真梨子さんがチャイナドレス風の衣装に包まれて出てきた。1曲目、2曲目と音響を気にすることなく、見事な声量とリズムで会場の空気を一瞬にして変える。

10/29に資材の搬入。30日に同じ飛行機で香港入り。そのまま会場の下見に入ったのである。リハーサルの時間はおそらく音響の響きくらいの点検であろう。かなりの強行軍だ。

まだ48歳。

ピッチの乱れはない。ロングトーンも素晴らしい。少し低音の響きがと思うが、それは今と比べてしまうからである。

全くの不安のないオープニングであった。

言葉を確かめながら置いていくような感覚では全くない。

感情がナチュラルに籠っている。

「遥かな人へ」の各フレーズの伸びが素晴らしい。

ここまでで、真梨子さん自身が納得しているように感じられた。そういうときに見せる笑顔であった。

その安心感が、マリーの艶のあるトーン、そして息の抜き方、力の込め方のバランスの良い、笑顔の歌唱に繋がっていく。香港でもカバーされているからであろうが、「桃色吐息」がまさに艶のある表現である。ラストもあえてスロー気味にして余韻を残している。「軌道」のファルセットがいい。

この余韻が、「フレンズ」の赤く赤くの青春versionを引き立たせる。シンプルで、アコスティックで、しかもアルトサックスの温かい間奏で描かれる「フレンズ」。

私は、このフレンズの初期バージョンが好きだ。

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(c)PhotoAC

ハッピーエンドは金庫の中

ヒラヒラ淫ら

 

君の海に

はがゆい唇

遥かな人へ

五番街のマリーへ

桃色吐息

軌道

フレンズ

HBP

Excuse Me

背中から撃たないで

stop my love...

ごめんね

for you...

グランパ

無伴奏

​海色の風

この年から、HBPはメンバー全体で何かを行うというスタイルとなった。そして、未収録であるが「Excuse Me」とそして「背中から撃たないで」の各バートでメンバーが存在感を見せる演奏をする。

スポットが真梨子さんにあたって、赤いギターを抱えた真梨子さんが動き始めた時、P&C時代から応援している当時60代後半のベテランファンの方たちがウォーっと歓声を上げた。

香港のこの地で、ムービングライトが真梨子さんを照らす「stop my love」は、それは九龍島から香港島の高層ビルを眺めたときの、ライトアップされた光の動きに見えてくるから不思議だ。

「ごめんね」はまさにオリジナルバージョンである。

私は2コーラス目の、今とは違うドラムスの入り方が好きだ。

「for you...」はゆとりと、バラードはこう歌うという伸びやかさで宮原さんのピアノと呼応する。

おそらく黄金期の真梨子さんの歌唱であり、「for you...」の数多くの映像の中でもBEST の1曲である。

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もちろん、まだ「グランパ」は誰も立ち上がっていない。

霧の香港、夜景の消えた深夜の香港、まさに歌詞通りの映画のワンシーンをイメージさせる「無伴奏」

このホールの大きさと自然な反響音が、曲の広がりと奥深さを体感させてれる。

香港公演のための作品ではあるというけれど、立ち上がれないほどの闇の中から這い上がって来たその瞬間に、そばに伴侶がいることの倖せ、そばにいてくれるという思いが「海色の風」には込められている。

一人になった哀しいヒロインが、明日への希望に朝日に照らされて力強く生きて行く。

そこにさわやかな海風が吹いていく。

2018年「雲母の波」。

そこにも、浜辺で海風に髪をなびかせるヒロインがいる。その後、「海色の風」は何度もconcertのラストに使われたし、また名曲「約束」が「海色の風」を詞のテーマとメロディでモチーフにしているように、そこには真梨子さんの隠されたひとつのメッセージが描かれている。

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そして、コンサートの後のアフターコンサートパーティで、真梨子さんのそばで挨拶を聴いて、その余韻のままホテルの部屋に戻った時、時計は午前0時を指していた。

日本時間で25時である。

感動のほてりで眠れないまま、ツアーのセットリストには入っていない、「黄昏まで」や「不幸せにになんか」のメロディが流れてきた。

真梨子さんの好きな想いでの横浜の夜景、

そして、神奈川県民ホールを出ると感じる海風とカモメの鳴き声がなぜか耳に響いていた。

それは、コンサートのオープニングとは逆で、真梨子さんの歌声の中に、夜景が溶け込んでいった瞬間でもあった。

(2021/05/25記載)

ON THE STAGE
 THE CONCERT1990-2000
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